辛い体験を「乗りこえる」とはどういうこと?

 

辛い体験、トラウマ体験、などと言いますが、怖かったり、苦しかったり、罪悪感を感じたり、あまりに悲しかったりする体験をすると、その後の人生に大きな影響が出ることがあります。
 
最も典型的な例は、家族の死です。
とくに、子供時代に経験した場合、心の負担はとても大きいものです。
 
辛い体験を「乗りこえる」とはどういうことでしょうか?
 
 
世の中の多くの人は、感情的に落ち着けば、乗りこえたと考えているようです。
しかし私はあえて、そうではない視点を提供したいと思います。
 
確かに、辛い体験を経験した直後は、常に感情が乱れている状態です。
混乱し、怖くなったり、怒りが湧いたり、悲しみに襲われたりします。
この状態で必要なことは、他人の支えをもらいながら、激しい感情から少し離れる時間を作ること。表現が適切かどうかは分かりませんが、「休み休み嘆く」ように努める、ということです。そうでないと感情に呑み込まれてしまいます。
 
お葬式では、喪主は忙しくなるように出来ています。
やることが色々あるので、感情的になっているヒマがないわけです。始めの段階ではこれが大事です。
 
少し落ち着いてきた後は、逆に、その感情を溜め込まないように、しっかり嘆き悲しむことが必要になります。お葬式で言えば、みんなが帰って、去っていった後、喪に服す期間がありますが、それが嘆き悲しむための、癒しの時間です。現代の生活では、喪に服す期間が短すぎるため、十分に癒しがすすまないという指摘があります。
 
 
さて、それも過ぎて、日頃はそれほど辛い感情を思い出さなくなったとしたら、乗りこえたのでしょうか?
ここからが本題です。
 
実は、まだ完全に乗りこえたとは言えません。
 
潜在意識の中では、常に全ての経験(の記憶)が生きていると考えてください。思い出すというのは、ある経験にスポットライトを当てるようなものです。スポットライトが当たっていないときもその経験は、そこにあるのです。
 
常に辛い状態=辛い経験にスポットライトが当たり続けて、離れられない状態
落ち着いた状態=辛い経験にスポットライトが当たり続けてはいない状態
ということです。
 
しかし、「思い出したら辛い」としたら、完全には乗りこえていません。
 
つまり
落ち着いた状態=辛い経験にスポットライトが当たり続けてはいない状態
          =辛い経験にフタをして、一時的に安定している状態
乗りこえた状態=その経験を思い出しても、ほぼ平気(古傷の痛み程度)な状態
ということです。
 
なんとか普通に生活していけるためには、
落ち着いた状態まで行けば、ほぼ大丈夫になるのですが、
 
恋愛、結婚のように他人と深く関わる活動では、乗りこえきっていない過去の経験があると、どうしてもある瞬間に感情的になってしまうことがあります(他人から見ると「地雷を踏んだ」ということ)。
相手の言葉に極端に反応したり、仲良くなってくると怖くなったり、束縛してしまったり。過去の感情に振り回されて、今ここでの行動が合理的でなくなっているのです。
 
あるいは仕事であっても、部下の育成、カウンセリング、コーチング、チームをまとめる、などの対人的な仕事の場合、落ち着いたけれど完全には乗りこえていない過去の経験があると、何かの瞬間に感情的になってしまい、そのことが仕事上の問題になることがあります。
極端なケースでは、幼少時の孤独感が癒されていない社長が、女性社員ばかり雇い、しかもほぼ全員社長と男女の関係になったことがある、という例もあります。
 
 
そのようなケースでは、心理療法のような、潜在意識の中を浄化する取り組みが必要になります。
 
過去の辛い経験を乗りこえるのは、三つの段階があります。
・混乱   感情的になっている段階。離れようと思っても感情から離れられない。
・落ち着き 表層意識レベルでは落ち着いた段階。だが、思い出したら辛くなる。
・乗りこえ  潜在意識レベルで整理がついた状態。思い出しても大丈夫。
 
恋愛、結婚生活、あるいは部下の育成、社長業、職場の対人関係など、人間と深く関わる活動では、過去の辛い経験をきちんと「乗りこえ」る必要があります。
 
頑張ってるけれど、恋愛・結婚・対人関係がうまく行かないなどの悩みがある場合は、過去の辛い経験をしっかり乗りこえるという解決方法も、ぜひ検討してみてほしいと思います。
 
恋愛セラピー


 

「辛い体験を「乗りこえる」とはどういうこと?」への7件のフィードバック

  1. あずまさん、こんにちは。
    いつもわかりやすい解説で、まるで迷路で地図を手にしたような気持ちで読ませてもらっています。
     
    友達以上、恋人未満な彼のことで、思い当たったことがありまして、できたらアドバイスいただきたいのです。
    最初彼の方から積極的に私と関わろう、助けようと近づいてきてくれて、
    私はちょっと身辺に事情があったのできっちり友達の線引きを守っていたのですが、
    しだいに彼に惹かれていき、すっかり好きになってしまいました。
    でも私が本気になり、こちらからも愛情表現をし始めると、
    彼は引き始めました。ぎこちない関係になっていき
    ついに私と関係が深まっていくのが怖いと言われました。
     
    わたしとしては、彼の方があれだけ熱心だったのに、まるで何もなかったかのように
    距離をとられるのがショックでした。
    彼はご両親がたいへん厳しい人だったそうなので、ネガティブを押さえ込んで生きてきたのだろうと思っていますが、
    20年も前ですが恋人と死別したということも聞いています。
    その一言だけで詳しいことは知りません。
    そのあとに他に恋人がいたのかどうかも。
     
    彼は表向き自立していて、クールにスマートに生きている風を装いながら、
    内面は苦しさと寂しさでいっぱいで、鬱傾向もあるようです。
    とても真面目な人だと思います。
    私は傾聴を習ったことがあるので、彼が誰にも言わないできたネガティブなこと、
    心の中のことを少しうまく聞いてあげることができていました。
    そのときは彼の表情が和らぎ、目が輝いてイキイキするのを感じていました。
    私と話すのは癒される、と言ってもらいました。
    だからわたしが嫌われたから避けられている、飽きられたのだともあまり思えないのです。
     
    それでも怖いと言われるのは、彼が過去の恋人との死別の悲しみを乗り越えていないからなのでしょうか。
    もしそうだとしたら、私はどう対応したらいいのでしょう。

  2. アネモネさん
     
    コメントありがとうございます。
     
    そうですか。
    せっかく仲良くなったのに、急に相手がの態度が冷たくなったりすると、ショックですよね。お察しいたします。
     
    しかし、あえてハッキリ言えば、それを味わうことが、彼との交際を続けていくことなのだと思います。
     
     
    幼少期の感情というのは、本人の中だけに留まるものではありません。
    本人が感じている孤独感や罪悪感は、一番身近な人にうつります。心理学的には「逆転移」と呼ぶのですが、仲のよい恋人や家族は、表に出していない感情も含め、感情を共有するものです。
     
    アネモネさんが彼と一緒にいる理由が今、問われています。
     
     
    もし、アネモネさんが、彼に自分の不安を埋めて欲しい、自分の寂しさを埋めて欲しい、「好き」という気持ちを受け止めて欲しい、
    つまり、アネモネさん自身が、彼との交際を通じて自分の欲求を満たしたい、ということであれば、
     
    辛い道が待っていると思います。
     
    一方、いっときの自分の欲求は、脇に置いておくことができて、本心から彼の課題の解決のサポートに協力したいと思うのであれば、
    うまく行っていたときと同じように、彼の話をしっかり聞いてあげることが、よい関わりになると思います。
    とにかく、彼が本当に乗りこえるのを、サポートしていくわけです。
     
     
    ちなみに、私なら、後者はできません。
    セラピストとしてなら関われますが、感情も欲求も持った、ひとりの人間として関わろうと思ったら、自分の欲求を受け止めてくれない相手と一緒にいるのは辛すぎます。私は、恋愛で人助けはしない、と決めています。
    仕事で一定の枠を決めてサポートする形なら、自分にもできる、と。
     
     
    やり方そのものよりも、
    覚悟が問われているのです。
     
    その点を、よくお考えください。
     
    頑張って下さい、と書こうかと思ったのですが…
    頑張りすぎない方がいいですよ、と言い直します。
     
    では。

  3. あづまさん
     
    お返事ありがとうございました。
    さすが、とても的確なご意見だと思いました。
    わたしも、書き込んでから考えているうち、同じ結論に至りました。
    覚悟をきめるか、あきらめるかだなと。
     
    彼自身があるていど癒されるまで、わたしは
    ほんとうには甘えさせてはもらえない、私は受け取れないのを覚悟しなければならないのだと
    感じています。
    無意識にカウンセラーとして、求められている、
    無償の愛を尽くす母親として求められている、気がします。
    彼も、私に与えられないという自分を自覚しているのかもしれません。
    私がふつうに甘えてくる女だとわかったら、
    責任を持てない、とこわくなったのかも。
    だから深く関わりすぎないうちに離れた方がいいと思っているのかも。
    かえって大切にしてもらっているともいえるのかな。。。
     
    わたしは
    自分の欲求が少しもかなわない、という苦しみに飲み込まれてしまうときと
    彼がただ好きで、この世に存在してくれるだけでうれしいと思えるときと
    両方があります。
    後者はおすすめしないということですが、
    それをある程度やってみようと覚悟しました。
    成熟した自我でいないとむずかしいのでしょうね。
    やらないで後悔するのはいやなので、
    ベストをつくしてだめだったらあきらめようかと思います。
    彼は今までの自分と変わろうとして苦しんでいると感じるので。
    今のまま、誰とも深く関わらず、ひとりさみしく人生を終えてしまうなんて
    ほんとうはいやなのだと思います。
     
    ありがとうございました^^

  4. あずまさん こんにちわ。
    いつも参考にさせていただいています。ありがとうございます。
    こちらのコメントは個別相談ではないと書きながらも、いつも真面目に返答されていらっしゃるあずまさんには頭が下がります。
    ですが、中にはきちんとお金を払って相談されている方もいるので、どうなのかな、とも思います。
    ひとつの参考意見としてお伝えさせていただきました。

  5. あづまさま
     
    いつも、とっても興味深く拝読しております。
    私もコメントを書かれたアネモネさん同様の葛藤をつい最近まで持っていました。
     
    心の整理がついているにも関わらず、心のどこかで「いいのだろうか?」と思う自分もいましたが、あづまさんの
     
    >ちなみに、私なら、後者はできません。
    セラピストとしてなら関われますが、感情も欲求も持った、ひとりの人間として関わろうと思ったら、自分の欲求を受け止めてくれない相手と一緒にいるのは辛すぎます。私は、恋愛で人助けはしない、と決めています。
    仕事で一定の枠を決めてサポートする形なら、自分にもできる、と。
     
    というコメントを読んで、全てが腑に落ちました。
    (私もセラピストです)
     
    ついつい、「1人の人間」であることを忘れて、人助けをしようとしてしまっていた事にも(特に恋愛において)気付きました。
     
    とっても、ドンピシャなタイミングで、このコメントを読む事が出来て、心から有り難く思っています。
     
    こちらに思いをシェアしてくださったアネモネさん、そして、いつも分かりやすい文章で心や思考の地図を渡してくださるあづまさん・・・本当にありがとうございます。

  6. みなみさん
     
    コメントありがとうございます。
    ご心配もありがとうございます。
     
    このサイトは現在、年間100万人以上の訪問者があります。
    私の回答を、書き込んだ人以外の多くの人も読むわけです。
     
    商売上の言い方をすれば、質問への回答が、私の宣伝になっている、とも言えます。
    相談を書き込んだ方は、自分の悩みに対する無料の回答を得る代わりに、私の宣伝材料を提供してくれて、なおかつ、ここを訪れた他の方にも悩み解決のヒントを提供してくれているわけです。
     
    そう考えれば、
    公開前提の無料の回答(しかも文字のみ)と、
    秘密厳守の有料のカウンセリング(電話や対面)。
     
    私は、バランスがとれていると思いますけどね。

  7. ルナさん
     
    コメントありがとうございます。
    そうですか。期せずしてお役に立てたようで、嬉しいです。
     
    ま、要するに、自分も相手も同じように、大切にしようね、ってことなんですよね。
    色々問題が増えてくるとついつい冷静じゃなくなってしまうものなんですが、
    気づいて元に戻ろうね、ということなんです。
     
    今後も、いい意味で、第三者である利点を生かして、客観的な視点を大事にしてコメントしていきたいと思っています。
     
    ではでは。

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